【道徳教科書検定】アベ極右政権に奉仕し、「忖度」に長けた国民を大量生産する検定は廃止せよ

170328_百人切り.jpg
南京大虐殺事件。「百人切り競争」で中国人の首を刎ね
誇らしげに記念撮影に収まる大日本帝国軍人と、それを
讃え、軍部に「迎合と忖度」の姿勢を見せる当時の新聞

文部科学省の教科書検定までもが、まさかこうあからさまに森友学園問題に右ならえしてアベ極右政権に「忖度」するとは。

ことは来年4月から小学校で教える道徳が、それまでの副教材を使った授業から、子供たちの習熟度を個別に評価する「特別の教科」に“格上げ”されるのに伴って行われた文科省役人による教科書検定でのことだ。

本来、様々な日常を通して児童に考える機会を与えることが、道徳を教科として導入するに際しての文科省のコンセプトだった。

しかし、「道徳」では今回が初めてとなる検定で文科省がつけた“イチャモン”は、「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度を学ぶ」ためには、「パン屋さん」や「消防団のおじさん」を題材に取ってはならない、というお達しだった

小学1年用の教科書では、ストーリーの主人公・けんたがお爺さんと散歩に出かけ、パン屋でお土産を買い、自分の町を好きになるというものだった。

………

この日は久しぶりにお天気の良い、暖かな日だったので、二人は隣町まで足を延ばした。そこで以前からお気に入りだったパン屋さんでパンを買った。

ここで作っているパンは、ほんのりと甘い香りがして、けんたは大好きだった。そして口当たりの柔らかさは、このところめっきりと歯が弱ってきたお爺さんには、うってつけだったのだ。

二人は「いいお土産ができたね。お母さんやお姉さんもきっと喜ぶよ。あのパン屋さんのパンは、僕たちの住んでる町では食べられないもんね。僕たちの町にも、あのパン屋さんができるといいね」と言いながら、らんらん気分で帰宅したのだった。

ところが家へ着いてみると、日曜日なので家でゴロゴロしていたお父さんが、苦虫を噛み潰したような顔をして言った。

「こんなパン、食えるか!けんたもお爺さんも、日本人だろう。だったらこんな隣町のガイジンの食べるパンではなく、この近くの和菓子を買って来なくちゃいけんだろう。もっと日本や自分の住んでいる町の文化を大事にしなさい」

健太もお爺さんもとっても不愉快になった。お母さんやお姉さんも気まずい空気にいたたまれずに、その日は全員が早々に、自分の部屋に引きこもってしまった。せっかくの日曜日なのに、家族団らんも何も、あったもんじゃない。

けんたは、隣町のパン屋がなぜ郷土や日本の文化を愛することにはならないのか、なぜ自分たちの町で和菓子を買わなかったことがいけなかったのか、最後まで理解できなかった。

なぜ和菓子でなければいけないのか。もしかすると、おいしいパンを売るパン屋が、隣町にあることがダメなのだろうか。

それとも、お父さんが「もっと日本文化を大事にしなさい」と言ったことの意味は、パン屋さんがそもそも日本にあってはいけないということなのだろうか。

でも、いったいなぜ?けんたはいくら考えても分からなかった。

………

170328_忖度ください.png

もしこんなわけのわからないことを言う父親がいたら、けんたはきっとふて腐れて反抗し、ねじ曲がった少年に育ってしまうかもしれないし、日本文化も自分の町も隣町も、大嫌いになるかも知れない。

このたびの道徳の検定は、こんな検定だったようだ。ここでは文科省の役人が“わからずや”のお父さんだ。

もちろん、パン屋が「非国民」で、和菓子屋は「愛国者」という意味ではないだろう。それはラーメン屋が中国的でソバ屋が日本的だということはないし、焼肉屋が韓国的でうなぎ屋は日本的だということではないのと同じだ。

パンであれ和菓子であれ、食べ物の好みは人それぞれに違いがあり、その日、その時の気分で何を食べようと勝手なのと同じように、何を“道徳的”と考えるかは人によって違いがあってもいいのであり、いちいち文科省に問い合わせて聞く必要はない。

文科省も、国民に対して何が「道徳的」であり、何が「非道徳的」なのかという基準を押し付けるのは不当だ。それは、国民の「内面」に対して干渉することになるからだ。

国家が「パンではなく和菓子を食べろ」というように、一方的に道徳の規範を作り、その規範を基準にして文科省が国民を「非国民」と「愛国者」に分けること自体が大問題なのだ。

国家が作る道徳の規範には、国家の意志が強く反映される。したがって、その規範に基づいて国家が国民を教育するということは、とりもなおさず、小学生のうちから子供たちを国家の意に沿う国民として育て上げることを意味する。

その上で、道徳という特別教科において達成度を測る評価を付すことは、国家の方針や規範に沿う人間か沿わない人間かとの観点から、子供をランク付けすることに他ならない。

その結果、国家の言うことをよく聞く子供には高い評価を与える一方、意に沿わない子供には低位評価の成績を付けることになる。

道徳の評価は、国家にとって役に立つ人間であるか、逆に役に立たない者、忌むべき人間としての烙印を押すことであり、それは国家が忌むべき人間を作り出し、その者を社会から排除しようとする力となって作用する。それによって、子供を早い段階から差別の構造の中に放り込むことになる。

道徳とは、優れて人間の内面に存在する「個」それぞれの規範であり、ものの考え方や個性、世界観と言った内面の存在と同様に「個」の在りよう(個性)を形作るものだ。

その内面を形成する道徳を「個」の内側から引きずり出し、それ(「パン屋」)をことごとく否定し、代わりに国家の意思(「和菓子屋」)を押し付けることによって、「個」の内面にまで国家権力が浸透して行くことを意味する。

その行く手には、道徳教育が国民を統制するツールとなって立ち現れ、国家がそれを積極的に用いることによって、思想統制という最も危険な事態が出現する。

そのようにして、子供のうちから国民を非国民と愛国者(皇国の民)とに選別し、分断した上で、非国民を社会構造から徹底排除しようとするところに、かつての「一億総火の玉」の戦時体制構築を目指す極右勢力の“歴史的使命”と究極の目標があるのだろう。

そして、まさしくその歴史的使命を背負っているのが、アベ政権であり、政権中枢を占める日本会議であり、彼らが目指すところの「戦後レジームの総決算=戦前レジームへの回帰」そのものなのだ。

その戦前思想を体現するために、国家が用意した道徳規範を、教科書という媒体に落とし込む役目を担っているのが教科書検定であり、それは強い強制力を持つ。文科省による検定を通過しない教科書は使われることがない。

すなわち、その規範をいかに子供たちに叩き込もうかと日夜知恵を絞っているのが、文科省の検定役人であり、彼らの意を受けた教科書審議委員である。

もちろん、安倍シンゾ自身が、自分の口から「パン屋を和菓子屋に変えろ」と役人に指示したわけではないだろう(多分…)。

170328_審査.png
文部科学省『教科書Q&A』
「Q5 教科書の検定は、どのような仕組みになっていますか?」
(クリックで拡大)

しかし、検定の担当者やその上司は、ここをうまく乗り切らなければ、将来の出世レースに後れを取るかもしれないとの思いが、頭をかすめるに違いない。役人にとっては出世だけが生きがいだからだ。

文科省を含む官僚の人事権(生殺与奪の権)を握っているのは今や内閣官房であり、もちろんそこには官邸中枢(=内閣総理大臣としての安倍シンゾ)の意向が強く作用することになる。

現場の検定官は、上司がそのこと(上司自身の出世)を最も気にかけているだろうことは十分に理解しているから、その上司の目の澱み具合を見て、検定意見のさじ加減を調整するのだろう。

その結果、教科書の一言隻句、一文字一文字が決められていき、最終的にはアベ本人はもとより、その側近ら極右ども(例えば菅義偉とか稲田朋美とか世耕弘成とか)のだれもが納得するような検定結果となって、教科書は出来上がる。

したがって、こうして出来上がった教科書は、限りなく極右思想に近づき、あるいはそれを受け入れやすい“下地”となって子供たちの柔軟な頭脳に浸透していく

その検定過程では、文科省役人や審議委員に対するプレッシャーとして無言のうちに働くのが、政権の意向に対する「忖度」であるのは間違いない。

それは、「検定意見」なるものが、いかに役人らの自発的思考ないしは知見によるもののように見えるとしても、官僚組織と、それに寄生している学識経験者と呼ばれる審議委員らヒラメ科の魚類が合同で作り上げ、検定結果の産物として生み出される。そして、その結果に対する責任は、誰一人負わない

170328_ヒラメ科の役人.png

その「意識の構造」がいかんなく発揮されたのが、「安倍晋三記念・安倍昭恵名誉校長・瑞穂の國小學院」であったわけだ。

アベ夫婦と籠池泰典、松井一郎らがあらゆる手練手管を弄して奇怪な「安倍晋三記念瑞穂の國小學院」立ち上げようとしている姿を見て、ある者は9億円の土地を定期借地権付き賃貸から1億円にまで値引きして払い下げる労を取り、またあるものは、私学審の答申を捻じ曲げてまで学校の認可適当を出すなどの忖度を働かせたものであろう。

その過程に、アベ夫婦からの強制力は伴っていなかったのかもしれないが(限りなく疑惑は濃いが現在のところ詳細は不明)、いずれにしても役人らの忖度があった事実は否定できない

こうしてアベ一強、自民一強と言われる権力構造の中で、学校という箱物(ハード部分)のみならず、道徳という内面(ソフト部分)からも、日本の教育は大きくゆがめられていく

しかし、そうした中にあっても、決してそれを見逃しておいてよいはずはないし、むしろそれらを厳しく糾弾することで、真の“道徳”とは何かを、国民の側からアベとその取り巻きどもにに突き付けていくことが必要だ。

同時に、インターネットを使って教科書検定基準や、検定の一切の審議過程や「検定意見」の付け方などをリアルタイムで白日の下に曝け出し、いかに不合理極まりないことが行われているかを点検する必要がある。

その上で、政権の権力強化の道具として使われている教科書検定制度という、前近代的な遺物を撤廃させる世論を形成していくことが、日本の教育のためには不可欠だ

一連の「森友・アベ騒動」は、教育勅語を幼児のうちから暗唱させるという狂気じみた森友学園、その教育方針に涙して感動した「頭のいかれた総理夫人」、その極右思想を政権のど真ん中で共有している安倍シンゾという人物、自分の出世と引き換えに政権の意向を忖度し国有財産をタダ同然に払い下げた木っ端役人などなどの存在によって、教科書検定制度の持つ危険性をもっとも端的に証明したと言える。

170328_愛の國から戦争へ.png


引用文タイトル
「パン屋」なぜ「和菓子屋」に 
道徳教科書検定「郷土愛」の怪
(東京新聞「ニュースの追跡」2017年03月28日朝刊)

小学校の道徳の初めての教科書検定が、思わぬ「郷土愛」論議を呼んでいる。「国や郷土を愛する態度」などを学ぶ題材を「パン屋」から「和菓子屋」に修正した教科書が合格したため。文部科学省は「パン屋がダメというわけではない」と火消しに躍起だが、騒動からは画一的な「道徳教育」の危うさが浮かび上がる。(木村留美)

170328_教科書.png

文科省 「どう直すかは発行者」

「なぜ修正が必要だったのか」と、首をひねるのは、東京都町田市内でパン屋を営む男性(74)だ。もともとは和菓子屋になりたかったが10代でパン屋に就職し、独立。半世紀以上パンを作り続けてきた。「パン屋でも日本が好きだし、ずっと地元に根差して仕事をしてきたつもり。郷土愛のあるなしは職業ではないでしょう」と残念がる。

24日に公表された検定結果で、「パン屋」を「和菓子屋」に直したのは東京書籍の小学1年用の教科書。「にちようびのさんぽみち」という題材で、当初は1年生のけんたが日曜におじいさんと散歩に出かけ、パン屋でお土産を買い、自分の町を好きになるストーリーだった。

この題材は国の学習指導要領で示す「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度を学ぶ」ことを目的としていたが、検定は「『わが国や郷土の文化と生活に親しみを持つこと』という内容について扱いが十分ではない」と意見を付けた。

これを受けて東京書籍は設定を「和菓子屋」に変更、「お店のお兄さんから季節感のあるカキやクリでつくることを教えられ、けんたは初めて見た和菓子についてもっと知りたいと思った」ことも加えられた。

この「修正」には、ネット上でも「戦時中みたい」などの異論が噴出。「和菓子屋なら文科省に納得してもらえるだろうと忖度(そんたく)させる空気がいや」といぶかる声もあった。

文科省の担当者は「パン屋が問題なのではない」と強調し、「伝統、文化に関する部分をどう直すかは発行者の創意工夫による部分で、パン屋を温存させる方法もあったはずだ」と説明する。ただ、東京書籍の教科書担当者は「修正にかけられる時間は35日で時間的な問題があった。パン屋の設定を維持し伝統、文化の話をしようとすれば複雑になる。1、2年生にわかりやすいように、和菓子屋に変えた」とする。

細かい注文「忖度招く」

道徳は2018年度から成績をつける「教科」になる。学習指導要領は「命の尊さ」など22項目を挙げ、その網羅を求めている。今回の検定で、国の「注文」の細かさが浮き彫りになった。

新潟大の世取山洋介准教授(教育法)は「指導要領で大枠が決まっているので、検定で指摘するとしたら細かいことしかない。だが、道徳は他の学問のように通説がある学問ではない。政権与党の指示する世界観が反映されやすく、特定の価値観を押し付けることになりかねない」と危ぶむ。

実際、別の教科書では「アスレチックの遊具」の設定も「パン屋」と同様の理由で「和楽器店」に修正されている。教育評論家の尾木直樹氏は「本当の意味の愛国心や文化伝統とは違うものだ」と嘆く。道徳を「特別の強化」に格上げした学習指導要領について尾木氏は「戦前の教育勅語に近づいている。『美しい日本』を掲げる安倍首相の思想そのもの。その好みを官僚や出版社が忖度している」とみる。「機械的に内容項目を満たすことを求めると、教科書は子供たちの日常と懸け離れたものになる。道徳嫌いになりかねなず、かえって道徳心が育たない」

(転載おわり)


引用文タイトル
パン屋「郷土愛不足」で和菓子屋に 道徳の教科書検定
(朝日新聞DIGITAL 2017年3月24日23:15)

 初めての小学校道徳の教科書検定が終わり、8社の24点66冊が出そろった。本来、「考え、議論する」を掲げたはずなのに、文部科学省が検定過程で付けた数々の意見からは、教科書作りに積極的に関与しようとする姿勢が浮き彫りになった。高校の地理歴史や公民の教科書でも、集団的自衛権や南京大虐殺などの記述が、文科省の指摘に従って横並びになった。

170328_修正例.png
(クリックで拡大)

 「しょうぼうだんのおじさん」という題材で、登場人物のパン屋の「おじさん」とタイトルを「おじいさん」に変え、挿絵も高齢の男性風に(東京書籍、小4)▽「にちようびのさんぽみち」という教材で登場する「パン屋」を「和菓子屋」に(同、小1)▽「大すき、わたしたちの町」と題して町を探検する話題で、アスレチックの遊具で遊ぶ公園を、和楽器を売る店に差し替え(学研教育みらい、小1)――。

 いずれも文科省が、道徳教科書の検定で「学習指導要領の示す内容に照らして、扱いが不適切」と指摘し、出版社が改めた例だ。

 おじさんを修正したのは、感謝する対象として指導要領がうたう「高齢者」を含めるためだ。文科省は「パン屋」についても、「パン屋がダメというわけではなく、教科書全体で指導要領にある『我が国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着をもつ』という点が足りないため」と説明。「アスレチック」も同様の指摘を受け、出版社が日本らしいものに修正した。

 「ここまで細かいとは」。各社の編集者はこうした検定のやり方に戸惑う。

 検定に臨んだ8社は、2015年に告示された指導要領が学年ごとに定める「節度、節制」「感謝」「国や郷土を愛する態度」など、19~22の「内容項目」を網羅することを求められた。

 学校図書(東京)の編集者は指導要領やその解説書を読み込み、出てくる単語をリスト化。本文や挿絵、設問に漏れなく反映されているか入念に点検したが、それでも項目の一部がカバーされていないという検定意見が数カ所ついた。別の出版社の編集者は「単語が網羅されなくても、道徳の大切さは伝えられる。字面だけで判断している印象だった」と不満を口にする。

 最終的に、検定では8社の計24点(66冊)の教科書に誤記や事実誤認を含めて244の意見がつき、このうち43が指導要領に合わず、「本全体を通じて内容項目が反映されていない」などの指摘だった。

 各社は指摘に沿って本文やイラストを修正したが、これまで検定の対象外だった副読本より、「横並び感」が強まった。

 中身だけでなく、文科省は教科書を使った授業のやり方にも注文をつけた。

 出版社は教師が指導しやすいようにと、読み物の冒頭や末尾に設問を入れるところが多かった。そんな中、低学年向けの教科書だけ、あえて設問を入れなかった社もあった。「指導の自主性を尊重したいという考えから」(編集者)だったが、指導要領が定めた「問題解決的な学習について適切な配慮がされていない」という意見がついた。

 最終的には、設問を挿入して検定を通ったが、編集者は「設問をあらかじめ示すことは、読み手の子どもに先入観を与え、読み方を規定することにつながりかねない。『考える道徳』に反しないか」と疑問視する。

 横並びの印象が強いのは検定だけが理由ではない。出版社側の思惑もある。

 各社が学年ごとに掲載した約30~40の教材には「定番」が目立つ。文科省の副読本「私たちの道徳」や旧文部省の道徳指導資料などにある教材を全社が引用。「はしの上のおおかみ」「花さき山」「ブラッドレーのせい求書」「雨のバス停留所で」「手品師」などは全社が掲載した。このほか、4社以上が採用した資料も少なくとも16ある。

 複数の出版社は「現場の教員から『授業の実践例が豊富な定番を使いたい』という声が多い」とし、「採択されるには、多くの先生が教えた経験のある教材を一定程度入れるしかない」(編集者)と打ち明ける。

 全ての教科書が扱った「いじめ」関連の内容では、ネット社会を背景に、ネットいじめについて学ぶ読み物が並び、仲間はずれにされる場面を演じるコーナーを設ける教科書もあった。(前田育穂、菅野雄介)

■地理歴史や公民、政府の主張が随所に

 一方、高校の地理歴史や公民では、戦後補償や安全保障などをめぐる記述で、政府の主張や立場が随所に反映された。

 14年の憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認と15年成立の安全保障関連法は、現代社会と政治・経済の全8冊に掲載された。うち5冊が「閣議決定をもって一部『行使できる』ことに変更」など、集団的自衛権を使う際の前提になる「新3要件」に触れなかったり、例として1要件だけを取り上げたりした。「立法までの経緯などを記せば3要件は書かなくても理解できる」(編集者)といった判断だ。

 これに対し、文科省は「新3要件をすべて書かなければ、生徒にとって理解し難い」と指摘。その結果、8冊すべてに新3要件が掲載された。政府は3要件をもって集団的自衛権の行使は限定的なものだと強調しており、こうした点を踏まえたとみられる。

 戦後補償についても、日本史2冊に対し、慰安婦問題に関する15年末の日韓合意を書くよう求める検定意見がついた。「戦後補償を詳しく書く場合、日韓合意の記述は『最近の動向』として不可欠」というのが文科省の見解だ。ただ、検定中に、朴槿恵(パククネ)大統領をめぐる疑惑が浮上するなど、日韓合意の履行を危ぶむ声もある。執筆者の一人は「22年まで使う歴史の教科書に慌てて書く必要があったのか」と話す。

 14年1月に検定基準が改定され、ときの政権の立場が強調される傾向は強まっている。「政府見解がある場合はそれに基づいた記述」「近現代史では通説的な見解がない数字などはそのことを明示」といった内容で、この基準に基づく検定意見は今回も南京大虐殺(南京事件)の犠牲者数などで計11件あった。「日本では数万~十数万以上など諸説あり」「中国政府は30万以上を主張」と書いていても、「通説的な見解がない」ことを明確にするよう求められた。執筆者の一人は「教科書から多様性が失われ、マニュアル化が進んでいる」と心配する。(木村司、沢木香織)

■小学校道徳の「22の内容項目」(学習指導要領による)

善悪の判断、自律、自由と責任▽正直、誠実▽節度、節制▽個性の伸長▽希望と勇気、努力と強い意志▽真理の探究(5、6年生のみ)▽親切、思いやり▽感謝▽礼儀▽友情、信頼▽相互理解、寛容(3年生以降)▽規則の尊重▽公正、公平、社会正義▽勤労、公共の精神▽家族愛、家庭生活の充実▽よりよい学校生活、集団生活の充実▽伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度▽国際理解、国際親善▽生命の尊さ▽自然愛護▽感動、畏敬(いけい)の念▽よりよく生きる喜び(5、6年生のみ)(前田育穂、菅野雄介 木村司、沢木香織)

(転載おわり)


引用文タイトル
「道徳」教科書の初検定 8社すべてが一部修正し合格
(NHK NEWS WEB 2017年03月24日16:06)

170328_池田教授.png

来年4月から評価を伴う「特別の教科」となる小学校の道徳の教科書に対する初めての検定が行われ、作成した8つの会社の教科書が、一部の記述を修正したうえで、すべて合格しました。

今回の教科書検定は、来年4月から評価を伴う「特別の教科」に格上げされる小学校の道徳が24点、高校の日本史など213点が対象となりました。

このうち、道徳は、作成した8つの会社すべてがいじめの問題を内容に盛り込み、一部の記述を修正したうえで合格となりました。

小学1年生のある教科書では、申請段階では、物語に友達の家のパン屋を登場させていましたが、「国や郷土を愛する態度」などを学ぶという観点で不適切だと意見がつけられ、教科書会社は「パン屋」を「和菓子屋」に修正しました。

これについて、教科書会社は「日本文化であることをわかりやすくするため和菓子屋に修正した」と話しています。

道徳の検定では「家族愛」や「生命の尊さ」など22の項目を国が盛り込むよう定めていて、教科書会社の中には、「家族愛」を記述するにあたり、母子家庭の増加など家族が多様化するなか、国が求める家族像とのバランスが難しかったと取材に答えたところもありました。

道徳教育に詳しい中央大学の池田賢市教授は「特定の家族像とか家族愛を取り上げて教えることは、実態とかけ離れていると言わざるをえない。学校現場では、道徳の教科書に書かれた価値観だけでなく、子どもの実態に即して教えるべきだ」と話していました。

一方、高校の「地理歴史」や「公民」の教科書に対しては、3年前から新たな検定基準が設けられ、通説が定まっていない事柄はそのことを明記するほか、政府の統一的な見解などがある場合はそれを取り上げるよう定めています。

今回、これに基づいてつけられた意見は合わせて11件ありました。このうち、1937年に中国・南京で起きた南京事件の犠牲者数について、4点の日本史の教科書に意見がつきました。

ある教科書では「死者の数は戦闘員を含めて、占領前後の数週間で少なくとも10数万人に達したと推定される」という記述に意見がつき、教科書会社は「おびただしい数の中国人を殺害し」と修正したうえで、犠牲者の数が諸説あることを盛り込んで合格しました。

また、関東大震災の混乱の中で殺害された中国人や朝鮮人の数も、日本史の2点の教科書で同様の意見がつきました。

さらに、島根県の竹島や沖縄県の尖閣諸島など領土に関する意見は20件に上り、いずれも政府の立場を説明させるなどの修正が行われました。

道徳教育と検定基準

道徳の教科化は、子どもたちの内心を評価することはできないなどの理由で、戦後一貫して見送られてきました。しかし、全国で深刻ないじめの問題が相次いだことや、ほかの教科と比べて軽んじられているなど、多くの課題が指摘されたことを受けて、今から2年前に教科化が決まりました。

小学校では、来年4月から今回、国が検定した教科書を使った授業が毎週1回行われ、子どもたちに対して記述式の評価が行われることになります。ただし、そこで行われた評価は入試では活用してはならないと定められています。

教科書に最近の話題や人物

今回、合格した教科書には、AI=人工知能についてや、お笑い芸人で芥川賞を受賞した又吉直樹さんの作品など、最近の話題や活躍した人物の記述も数多く盛り込まれています。

人工知能については、「倫理」のある教科書で1ページの特集が組まれ、どこまで人工知能に判断を委ねるべきかや、人間にしかできないことは何かを問いかけています。

英語の教科書でも、人工知能が搭載されたロボットが人間と戦うSFアクション映画の記述が掲載されました。

また、ことしで施行から70年を迎える憲法については、前回の検定よりも記述が大幅に増えました。ある「政治経済」の教科書では、憲法改正の論点などについて紹介しています。

このほか、「現代文」の教科書では、お笑い芸人の又吉直樹さんが芥川賞を受賞したことを紹介したものや、又吉さんが祖母との思い出をつづったエッセーを題材に盛り込んだものもあります。

また、道徳の教科書では、「夢を実現するためには」という見出しでプロ野球選手の大谷翔平選手が紹介されているほか、元AKB48の高橋みなみさんがいじめ問題に関して子どもたちに向けたメッセージが掲載されています。

文科相「質の高い授業を期待」

松野文部科学大臣は、「各学校において、今回の検定を経た教科書を活用して『考え、議論する』道徳を進めるなど、児童や生徒の興味・関心に応じた質の高い授業が展開されることを期待したい」とするコメントを発表しました。

(転載おわり)


この記事へのコメント


この記事へのトラックバック