【オバマの広島訪問】日本政府は渾身の力を込めて核の恐ろしさを訴えよ


政権1期目の2009年4月5日、歴史的なプラハ演説「核なき世界」でノーベル平和賞を受賞したバラク・オバマ米大統領が、残りの任期が半年余りとなる今月27日、ようやく広島を訪問することが正式に発表された。

オバマはこの演説で「核兵器を使ったことのある唯一の核保有国として、行動する道義的責任がある」「核兵器のない世界の平和と安全保障を追求するという米国の約束を明確に宣言する」と述べた。

これを受けて同年8月6日の広島平和記念式典では、秋葉忠利広島市長は平和宣言の中で「われらはともに核を廃絶できる。Yes, we can.」と、オバマの決め台詞を用いてこれに呼応した。

その翌(2010)年4月には、オバマは「核戦略体制の見直し」を発表し、アメリカは新たな核実験を行わないことや、核兵器の使用条件を限定することなどを明らかにしている。

だがこうしたオバマの核廃絶への取り組みに対する秋葉市長や世界の人々の大きな期待もつかの間、オバマは同年9月15日、政権初となる臨界前核実験を行った。

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広島の平和公園では、被爆者団体が抗議の座り込みをし、秋葉市長は「激しい憤りを覚える」とする抗議文を米国大使館に送った(日テレNEWS24 2010年10月14日)。

オバマはこれ以降も臨界前核実験を繰り返し行っており、そこから得られた実験情報は新たな核兵器開発につながっている可能性もある。

事実、オバマが政権に就いて以降、Zマシン核実験*と呼ばれる新らしいタイプの核実験も行われるようになっていて、10年11月に第1回目が行われてから14年10月までの間にすでに12回に上っている(長崎大学核兵器廃絶研究センター)。

*Zマシン核実験=強力なエックス線発生装置を使って核爆発に近い超高温、超高圧の状態を作り、核兵器の材料プルトニウムの反応を調べる。星の内部よりも熱い20億度K(絶対温度)を超えてプラズマを生産する(Sandia’s Z machine exceeds two billion degrees Kelvin)。

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(ネヴァダ核実験場)

今もその実験は続けられていて、その“合間を縫って”の広島訪問で、オバマ自身の口からどのようなメッセージが発せられるかに世界の注目が集まっている。

アメリカのローズ大統領副補佐官は、ブログで次のように書いている(Jcastニュース)。

「大統領の広島滞在で、平和と核兵器のない世界の安全保障を追及(ママ)するという米国の長年の、そして大統領の個人的なコミットメント(関与)を再確認することになるだろう」

「彼(オバマ大統領)は第2次世界大戦末期の原爆使用の決定を再考することはない。代わりに、我々が共有する未来に焦点を当てた前向きな見通しを示すだろう」

こうした米政府高官の発言は、すべての五大核保有国が核の先制使用権を留保(中国は不明)している現状から見ても、71年前の広島、長崎への原爆投下をまったく反省していないどころか、むしろ正当化しつつ、今後も必要があれば躊躇なく使うということの意思表示であると受け取れる。

だが、たとえ戦争中のこととはいえ、存在自体には何の罪もない多くの市民を、原爆の使用によって一瞬にして蒸発させ、殺戮した国家としての米国の責任は永久に消えることはない。

その後も重度の火傷に苦しみながら、長い時間かかってついには命を絶たれた多くの人々の苦痛や、放射線被害によって子や孫の世代にまで被害を引きずった人々の苦悶に、オバマは応える責任があるだろう。

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(現役閣僚として初めて広島を訪れた
ケリー国務長官〔左から4人目〕)

その上で、米国を代表して広島を訪れようとしているオバマに対し、日本政府は被爆者と国民を代表して、どのようにカウンターパートぶりを発揮しようとしているのか。

今回のオバマの広島訪問を日本政府が発表した5月10日夜、安倍晋三首相は、「心から歓迎する」と述べる一方、「全ての犠牲者を日米でともに追悼する機会としたい」「核兵器のない世界へ向けて、大きな力になると信じている」とその“意義”を強調して見せた。

何ともありきたりの言葉の羅列であり、原爆投下に対する一片の抗議の意思表明もなければ、米国がその後も核開発競争に邁進してきた事実、そしていまなお、様々な形の核実験を継続していることに対して異議や疑念を唱える言葉すら含まれていない。

それどころか、歴代の日本政府は敗戦直前の昭和20(1945)年8月10日に、広島、長崎への原爆投下について『米機の新型爆弾に依る攻撃に對する抗議文』を中立国スイスを通じ伝達したのみで、その後の新憲法の下ではただの一度も直接の抗議を行っていない(平成19年7月3日質問主意書第473号平成26年10月1日質問主意書第9号、およびそれぞれに対する政府答弁書)。

上記質問主意書に対する安倍首相名による答弁書(平成19年7月10日)では、「これらの原子爆弾の投下について米国政府に直接抗議を行ったことは確認されていない」ことを認めている。

そして、そのことに対する安倍首相の認識は次のようなものだ(同答弁書)。

米国に対し抗議を行うよりも、政府としては、人類に多大な惨禍をもたらし得る核兵器が将来二度と使用されるようなことがないよう、核兵器のない平和で安全な世界の実現を目指して、現実的かつ着実な核軍縮努力を積み重ねていくことが重要であると考える」

と、ここでもまったく腰が引けていて、どこか他の国の首相のような内実のなさだ。

こんな日本の態度であれば、当の米国は謝罪するはずもないし、オバマが広島を訪問しようと長崎に行こうと、「行ってきました」というアリバイ作りに手を貸すだけの結果に終わるだろう。

オバマが、ノーベル賞受賞大統領として、任期中に何一ついいことがなかった(実績を上げられなかった)欧州、中東、ロシア、中国、アジアなどでの外交面で、唯一のポイントであるキューバとの国交回復には及ばないものの、「ヒロシマ」をアリバイ作りに利用しようとしている如何ともしようのない欺瞞は、被爆者らの心情を掻き立てるだろうし、その怒りと落胆はいかばかりかと察する。

第二次世界大戦の末期、米国が最も恐れたのは日本軍国主義やナチスドイツが原爆を先に手に入れることだった(日本はウランを入手できなくて断念した)。もちろん仮にそれが実現していたら、それはそれで狂気の大量殺戮の世界が現出してただろう。

確かに、米国が人類史上最初に核兵器を使用したことをもって、あの戦争は終わった。

だが広島、長崎に落とされた原爆は、必ずしも戦争終結を早めるだけが目的だったのではなく、米国にとっては「(原爆開発に)20億ドルも投資した見返りとして、その結果を得なければ議会が納得しない」「それが人体に及ぼす影響を観察しなければ投資した意味がない」「スターリンが北海道の北半分を占領する前に決着を付けなければならない」といった、極めて功利主義的で政治的な決断に押されてのものだった。

そうした動機から米軍(占領軍)は、戦争終結直後に広島、長崎にいち早く乗り込んで、その惨状を目の当たりにしているはずだ。そこで情報管制を敷きながら、被爆者の治療には目もくれずに、多くの被害の実態のみを調査し、そのデータと情報を持ち帰っている。

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(「対ソビエト原爆攻撃資料」
=米国は9割の国民を殺し、産業を壊滅させるために標的とな
る都市をリストアップして、必要な原爆の数を割り出していた)

そうして大きな“成果”を得た米国は、戦後の世界で覇権を握るため、全ソビエト国民をほぼ完全に抹殺するシミュレーションを描いていた事実も確認されている(NHKドキュメンタリ「盗まれた最高機密―原爆・スパイ戦の真実」2015年11月01日放送)。

この事実は、本質的に核が人類に対して持つ“絶対的な優位性”を示す一方で、核の存在そのものが、間違いなく全人類の抹殺に直結するという「恐怖と誘惑」を、それに携わる人間にもたらしただろう。

唯一の被爆国の国民として、5大国をはじめとする核保有国に対し、核廃絶へのプロセスを明らかにするようより強く求めるとともに、自国政府がアメリカの核の傘の下で、「核の平和利用」に名を借り、プルトニウムの増産体制に向け突き進んでいるという現実を糾弾し、一刻も早く核サイクルから手を引くよう、求めていく義務がある。

と同時に、次期米国大統領にもなりかねない勢いを示しているドナルド・トランプ共和党候補が、日本、韓国に対して核保有をそそのかしていることについて、日本政府は毅然としてそれをはねつける強固な意志を、オバマを通じて全ての米国民に伝えるべく、強い抗議の姿勢を示すことが必要だ。

それとともに先のアジア・太平洋戦争は、そもそもが日本が始めた侵略戦争であり、日本自身も広島、長崎への原爆投下に匹敵する(あるいはそれを上回る)残虐な行為を、他国民に対して行ってきた事実を直視し、東京裁判で事足れりとする姿勢を改め、日本人自身の手による戦争犯罪の総括をしておく必要がある。

いつまでもそれに躊躇し、真正面から向き合う姿勢をとることができずにいるうちは、どれほど口を極めて「核の被害」のみを訴えても、トランプの“そそのかし”に拍手喝さいする多くの米国民がいる以上、彼らの真の共感を得られないことも知るべきだろう。

本当の核の恐ろしさを、最後は自分に降りかかるかもしれないという意味において、米国民も、そして我々日本人も再確認する必要がある。それができればこその「オバマの広島訪問」なのではないか。

オバマ氏 27日ヒロシマ訪問 現職の米大統領で初
(東京新聞2016年05月11日朝刊)

【ワシントン=石川智規】ホワイトハウスは10日、オバマ大統領が5月下旬の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に出席した後、27日に広島を訪問することを正式に発表した。安倍晋三首相とともに「歴史的な訪問となる」とした。米国の現職大統領が被爆地を訪問するのは初めて。

大統領報道官の記者発表声明として公表した文書では、オバマ氏の広島訪問について「平和と安全を追求し、核兵器のない世界を目指す姿勢を示す」とした。

オバマ氏は、サミット終了後の27日に広島に移動。平和記念公園の原爆死没者慰霊碑に献花するほか、被爆者らに向けて演説を行うことが有力視されている。

オバマ氏は2009年4月、プラハで「核なき世界」を提唱し、その年のノーベル平和賞を受賞した。その後、オバマ氏は長年にわたり広島訪問に「興味を持ち続けていた」(アーネスト大統領報道官)が、米国内では広島と長崎への原爆投下が正しいとする意見が強く、実現せずにいた。

今回の訪問は、オバマ氏の来年1月の任期満了を控え、核なき世界を今後も追及する姿勢を国内外に示すためとみられる。

転載終わり

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